天文学者のマクロ経済学#3|政府の役割は財政赤字と徴税による通貨流通量の調整(マクロ経済モデルの登場人物2)

お金

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2025年冒頭では、新シリーズ「天文学者のマクロ経済学」をしばらくの間お届けします!2024年末ごろから、基礎控除引き上げによる減税や財政収支(プライマリーバランス)の黒字化が話題ですね。マクロ経済の概念は、天文学の一分野である銀河の形成進化の研究で使われるモデルによく似た部分があると感じました。そこで、天文学者としてマクロ経済について考察してみることにしてみました!

このシリーズ「天文学者のマクロ経済学」では、

  1. マクロ経済モデルの概観 | 3人の登場人物とお金の流れ
  2. 企業の役割 | モノの生産
  3. 政府の役割 | 通貨流通量の調整 ←今回
  4. 政府収支と物価 | 財政収支黒字化は目標として不適切
  5. 技術革新と物価 | 技術革新もデフレ化を招き得る
  6. 貿易と物価 | 日本は貿易黒字によるインフレを狙っている?
  7. 日本の財政政策 | デフレに逆戻りしないためにどうすべき?

といった内容を解説する予定です!

#3の今回は、マクロ経済モデルにおける政府の役割を解説します。この記事を読めば、政府の役割が通貨供給量を調整することであることを知ることができます!さらに、財政黒字の本質が通貨の回収(=デフレ誘導)であること、財政赤字の本質が通貨の供給(=インフレ誘導)であることなど、税と財政の本質を理解することができます。ぜひ最後までご覧ください。

Kaiko
Kaiko

この記事はこんな人におすすめ

  • 基礎控除引き上げの議論で経済に興味を持った
  • 政府の財政黒字化が正しいのか間違っているのかわからない
  • 国の借金のことがなんとなく心配



Abstract | 政府の役割は財政赤字と徴税による通貨流通量の調整

マクロ経済モデルでは、政府、企業、家計の3人だけの登場人物を設定し、国の中でのお金の流れをこの3人の間でのやりとりとして考えます。マクロ経済モデルにおける政府の役割は、市場の通貨流通量を調整することです。政府は、企業や家計への支払いを行うことで市場に通貨を供給する一方で、企業や家計からの徴税することで市場から通貨を回収することができます。政府は、市場に存在するモノの総量に対して通貨流通量を適切に調整することで、過度なインフレやデフレを防ぎ、少しインフレ気味というちょうど良い物価上昇率になるようマクロ経済を調整する必要があります。

通貨の供給と回収のバランスは財政収支によって変化します。財政を赤字にすることで通貨の供給が回収を上回るため通貨流通量が増え、財政を黒字にすることで通貨の回収が供給を上回るため通貨流通量が減ります。財政赤字の本質は市場への通貨供給でありインフレ誘導、財政黒字の本質は市場からの通貨回収でありデフレ誘導となります。マクロ経済モデルの図を眺めると、そもそも政府支出が通貨供給、徴税が通貨回収の役割をになっていることが一目瞭然です。



Background | マクロ経済モデルの前提のおさらい

まずはマクロ経済モデルについておさらいしましょう。前回までには、

  1. 天文学者のマクロ経済学#1 導入編|マクロ経済モデルの概観(3人の登場人物とお金の流れ)
  2. 天文学者のマクロ経済学#2|企業の役割はモノの生産(マクロ経済モデルの登場人物1)

という内容を扱いました。#1では登場人物は政府、企業、家計の3人だけであること、お金の流れはこの3人の間でやりとりする6種類だけであることをお話しました。さらに、貿易収支均衡の仮定を置くことによって、国を一つの閉じた系と考えることができることもお話しました。#2では登場人物の一人である企業の役割が商品やサービスといったモノの生産であることをお話しました。

#3の今回はもうひとりの登場人物である政府の役割を解説していきます。#1と#2をまだ読んでいない方は、上記のリンクからご覧ください!



Method | お金の流れから考える政府の役割

シリーズ初回#1記事「天文学者のマクロ経済学#1 導入編|マクロ経済モデルの概観(3人の登場人物とお金の流れ)」で紹介したマクロ経済モデルにおけるお金の流れをもう一度確認しておきましょう。図1はマクロ経済モデルにおける3人の登場人物とその間でのお金のやりとりです。#1記事でお話したように、登場人物は3人だけ、お金の流れも6種類だけです。今回は政府の役割に着目します。政府が関わるお金の流れは

  1. 政府から企業への支払い: \(m_{GB}\)
  2. 政府から家計への支払い: \(m_{GC}\)
  3. 企業から政府への支払い: \(m_{BG}\)
  4. 家計から政府への支払い: \(m_{CB}\)

の4つです。

図1. マクロ経済モデルにおけるお金の流れ

市場における通貨流通

マクロ経済モデルのなかで、企業と家計をあわせた部分が市場です(図2)。市場での通貨の流通を考えてみましょう。市場と外部とのお金のやり取りは、政府が関係する4種類のお金のみであることがわかります。したがって、政府は市場における通貨の流通量をコントロールできることがわかります。

図2. マクロ経済モデルにおける市場

市場の通貨流通量を調整する必要性 | 物価の安定

市場の通貨流通量は適切に調整される必要があります。市場に残されるモノの価値の総量に対して、通貨が多すぎれば過度な物価上昇(インフレ)が発生し、逆に通貨が少なすぎれば物価が下落します(デフレ)。過度なインフレやデフレは経済に悪影響を与えるので、対策して回避する必要があります。つまり、物価を安定されるために、政府は市場の通貨流通量を適切に調整する必要があります。

前回記事「天文学者のマクロ経済学#2|企業の役割はモノの生産(マクロ経済モデルの登場人物1)」では、経済成長が続く限り、市場に残されるモノの価値の総量は増え続けることを確認しました。資本主義の世界では経済は基本的に成長していくので、モノの総量が増え続けます。したがって、基本的には通貨流通量を増やしていく必要があります。ただし、通貨流通量を増やしすぎたことによりインフレが進み過ぎた場合には、通貨流通量を減らしてデフレ方向に持っていくことが必要です。



Result | マクロ経済モデルにおける政府の役割 | 通貨流通量の調整

マクロ経済モデルにおける政府の重要な役割は通貨の供給と回収、すなわち通貨流通量の調整です(図3)。政府は企業への支払い(\(m_{GB}\))や家計への支払い(\(m_{GC}\))によって、市場に通貨を供給することができます。逆に、企業からの税金の徴収(\(m_{BG}\))や家計からの税金の徴収(\(m_{CG}\))を行うことで、市場から通貨を回収することができます。したがって、政府からの支払い(\(m_{GB} + m_{GC}\))と政府への支払い(\(m_{CG} + m_{BG}\))のバランスを調整することで、市場の通貨の量を増やしたり減らしたりすることができます。市場の通貨の増加量は
$$
\Delta m = (m_{GB} + m_{GC}) – (m_{CG} + m_{BG}) \tag{1}
$$
あるいは
$$
\Delta m = m_{GC} – m_{CG} + m_{BG} – m_{GB} \tag{2}
$$
と書くことができます。

図3. 政府の役割は通貨の供給と回収

ポイント1 | 政府は通貨を発行できる

政府と市場(企業と家計)のお金のやりとりを考える上で、重要なポイントが3つあります。1つめのポイントは政府は通貨を発行できるということです。閉じた系である国の中で使える通貨を発行できるというのは強力な力です。政府は通貨を発行して、企業への支払い(\(m_{GB}\))や家計への支払い(\(m_{GC}\))に使うことができます。この「通貨を発行して支払いに使う」というところが重要です。新たに発行された通貨が支払いを通じて市場に供給されることで、市場の通貨の量を増やすことができます。

ポイント2 | 政府は徴税できる

2つめのポイントは政府は徴税をできるということです。政府は企業や家計から強制的に税金を徴収することができます。強制的に税金を徴収できるので、政府は入ってくるお金の流れ(\(m_{CG}\)と\(m_{BG}\))をコントロールすることができます。通貨発行によって市場に供給した通貨を、徴税によって回収することができます。

ポイント3 | 政府の財政赤字 = 通貨供給の手段

3つめのポイントは政府の財政赤字はそのまま市場への通貨供給の手段であるということです。なぜなら、市場の通貨流通量が増える場合というのは政府の収支が赤字になる状況だからです。これは式(1)や(2)を見れば明らかで、\(\Delta m > 0\)ということは、政府からの支払い\(m_{GB} + m_{GC}\)が政府への支払い\(m_{CG} + m_{BG}\)を上回るという状況なので、\(\Delta m\)の分だけ財政赤字となります。これはすなわち、財政赤字によって市場の通貨を増やすことができると言い換えることができます。政府は通貨を発行することができるので、財政赤字自体は問題ではありません。\(\Delta m > 0\)の分だけ通貨を発行して、市場へ通貨を供給することになります。つまり、発行した通貨を市場に供給する手段が財政赤字ということです。



Discussion | マクロ経済から紐解く税と財源の本質

マクロ経済における政府の役割を踏まえて、税と財源の本質について考えてみたいと思います。結論を言うと、

  • 徴税の本質 = インフレ抑制手段
  • 財源の本質 = 通貨発行

です。以下で詳しく見ていきましょう。

徴税の本質 | 市場から通貨を回収するインフレ抑制手段

図3を眺めてみると、政府が企業や家計から税金を徴収する意義のひとつは市場から通貨を回収することにあると言えます。市場におけるモノの増加に対して、通貨供給量が増え過ぎれば過度な物価上昇(インフレ)が起きます。一方で、市場におけるモノの増加に対して通貨供給量が減りすぎてしまうと、今度は物価下落(デフレ)が起きます。経済にとって悪影響になるほどの過度なインフレを抑えつつ、デフレにならないように通貨流通量を調整する必要があります。このような物価調整を行うために、政府は税金を徴収して通貨を回収します。

徴税によって担保される通貨の価値

また、政府が強制的に税金を徴収することは、通貨の価値を担保する上でも重要です。政府が発行した通貨を企業や家計がありがたく受取り、市場のなかで価値があるものとしてやりとりされる背景には、その通貨で税金を払う必要性があります。あとで税金を払うために通貨が必要になるので、企業や家計は政府が発行した通貨をありがたく受取ります。通貨を持っていない人は、持っている人から通貨を得るために商品やサービスなどのモノや労働力を売ります。このように、税金が徴収されるために通貨が必要になり、通貨の価値が担保されます。

ちなみに、冒頭で紹介した森永康平氏のYouTube解説で建国一年目の財政の話が出てきます(こちらのYouTube)。今回は詳しく触れませんが、建国一年目の財政を考えると、税金には通貨の価値を担保する役割がよくわかります(なぜ農家が野菜を売って通貨を得ようとするのか)。

円の信用がなくなるのは日本政府が徴税できなくなったとき

ちなみに円の価値は日本政府が徴税することによって保たれています。逆に言えば、徴税ができなくなれば円の信用はなくなって価値が下がります。例えば、クーデターで無政府状態になってしまったり、治安が悪化して警察や公安、国税の対応が追いつかなくなって脱税する人ばかりになってしまうなど、日本政府の徴税機能がなくなってしまった場合には円の価値が毀損されるかもしれません。

財源の本質 | 政府から支払う財源は税金ではなく通貨発行

徴税の意義を理解しつつ図3を見直してみると、政府から企業や家計に支払われるお金、すなわち政府からの支出の財源の本質が見えてきます。政府からの支出の財源は税金ではありません。税金の役割は市場から通貨を回収することです。逆に政府からの支出の意義は市場への通貨供給です。したがって、政府からの支出の財源は本質的には通貨発行であるべきです。

ちなみに政府支出の財源が本質的には通貨発行であるという話も、冒頭で紹介した森永康平氏のYouTube解説で建国一年目の話に出てきます(こちらのYouTube)。建国一年目には税収がない中で公共事業を行う必要があるので、税金は財源になり得ません。政府だけが行うことができる通貨発行が財源となります。

マクロ経済を理解していない「自称専門家」に注意

2024年末現在、話題となっている基礎控除引き上げによる減税といった政府の収入の減少や、政府の支出の増加を議論する際に、財源問題を提起する人々がよく発生します。このような人々が口にする

  • 財政赤字は将来への負債の先送り
  • 国の借金が増える

といった話は、今回の記事の内容を理解すれば全くの誤りであることがわかります。正しくは、

  • 財政赤字は通貨発行
  • 市場の通貨が増える

です。もちろん財政赤字が拡大しすぎれば、市場の通貨が増えすぎてインフレが進みすぎるリスクはあります。ただし、今の日本は30年続いたデフレから脱却する兆しが見え始めた段階で、インフレ率もアメリカなどの他の先進国に比べれば低いです。

いわゆる財政破綻論者、緊縮財政論者と言われる人々は財源が必要であることを根拠に、増税の必要性を訴えていますが、税の本質や財源の本質、通貨の本質を全くわかっていないと言えます。そもそも「財政黒字を目指す」=「デフレ経済を目指す」ということがわかっていないからです。最近出てくる税の専門家を自称する与党政治家やその他自称専門家はみなさんマクロ経済の枠組みが理解できていないのでしょう。

「国の借金」、「将来への負債の先送り」といったことを口にする人間はマクロ経済を理解していないと疑ってかかるべきです。マクロ経済を踏まえた上での正しい姿勢は、財政赤字の拡大によってインフレが進みすぎないか、貿易に悪影響を与えないかを懸念することです。



Conclusion | まとめ

今回はここまでです!
マクロ経済モデルにおけるお金の流れから、通貨流通量の調整の必要性についてお話し、政府の役割が通貨流通量の調整であることを解説しました!

政府は税金を徴収することで市場から通貨を回収し、企業や家計に支払いを行うことで市場に通貨を供給します。政府の財政状況は市場への通貨供給量と直結しており、財政赤字のときは通貨供給量がプラス(インフレに導く手段)、財政黒字のときは通貨供給量がマイナス(デフレに導く手段)となります。政府の財政赤字は通貨供給の手段であって、赤字分は通貨発行で賄われるので、財政赤字自体は悪いことではありません。次回は、財政収支と物価の関係に踏み込み、政府の財政収支の黒字化が目標として不適切であることを解説します!お楽しみに!

以上「天文学者のマクロ経済学#3|政府の役割は財政赤字と徴税による通貨流通量の調整(マクロ経済モデルの登場人物2)」でした!
最後までご覧いただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!



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