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今回は博士のキャリア事情シリーズの第2回、生涯年収推定編です!
私が転職活動をしていた当初計算した、研究者のキャリアを歩んだ場合の生涯年収(総所得)の計算をご紹介します!
研究者の生涯年収は高いのか、低いのか?そんな疑問にお答えします!
Abstract | 金銭的には研究者のキャリアは割に合わない
ポスドクの給与水準が低いことだけでは、研究者のキャリアが民間と比べて良くないということは言えません。
確かにポスドクの給与水準は民間企業の同世代のサラリーマンと比べて低いですが、その後のキャリアで大きく稼ぐことができれば最終的には研究者の生涯年収の方が高いこともありえます。
今回は、研究者の生涯年収を様々なシナリオについて試算し、院卒で民間企業に就職した場合と比較します。
試算の結果、研究者の生涯年収は最も成功した場合で民間企業院卒者と同程度であるという結論になりました。
金銭面だけで研究者のキャリアのリターンを捉えた場合、民間企業のサラリーマンと比較して割に合いません。
金銭面以外のリターンを、各個人がどのように捉えるか。
これが研究者のキャリアを選択するか否かの分かれ道になるでしょう。
Background | ポスドク給与だけでは研究者のキャリアは語れない
本シリーズ第1回では、ポスドクの給与水準が低いことや、パーマネント職につきにくくなっているといったポスドク問題を取り上げました。
ポスドク時代の給与が低いと言っても、研究者としてのその後のキャリアで莫大なお金を稼げるのなら、トータルでは給与は高いということがありえます。
したがって、第1回のように、ポスドクの給与水準だけを民間企業と比較してポスドク問題をあぶり出すのはフェアなやり方ではありません。
例えばポスドク以外にも芸能人やスポーツ選手等、給与水準の低い下積み期間が必要な職業も存在します。
そのような職業では、下積み期間の給与水準が低くても、成功した場合に莫大なお金を稼ぐことができます。
金融の用語で言えば、ハイリスク・ハイリターンです。
金融では将来の不確実性のことをリスク、将来得られるお金の大きさのことをリターンと呼びます。
芸能人やスポーツ選手などは、不確実性は高いけれども成功すれば一攫千金のハイリスク・ハイリターンな職業と言えるでしょう。
では、研究者の場合はどうでしょうか?
民間企業に学部卒や修士卒で就職した場合と比べ、任期付き雇用のポスドク期間が存在する上、パーマネント職(終身雇用)に就けるとは限らないため、確実にリスクは高いでしょう。
リターンはどうでしょうか?
ポスドクの給与水準が低くとも、その後のキャリアで大金を稼げるのでしょうか?
今回は、研究のキャリアにおける生涯年収を推定し、民間企業と比較します。
研究者と民間のサラリーマンのリターンを比較してみましょう!
Contents | 研究者の生涯年収の推定
私が民間への転職をしていた頃のメモから、当時私が行っていたリスク・リターンの試算をご紹介しましょう。
ここで、当時の私は自分の将来キャリアに5つのシナリオを仮定して試算をしています。
実は金融の世界で将来キャッシュフローを試算するときには、不確実性の大きな世界経済の見通しなどを複数のシナリオで仮定することがセオリーです。
研究者のキャリアも不確実性が大きいので複数のシナリオを置きます。
全体の設定として、
- 29歳でポスドク生活を初めて収入が発生する
- 65歳まで収入が発生する
ということにしつつ、この37年間のキャリアパスのシナリオを5つ仮定します。
ちなみに65歳は東京大学の教員の定年です。
それぞれのシナリオにおける総収入を見積もって比較します。
シナリオ1 | 研究者として奇跡的なキャリアパス = 3億4150万円
まず、最も楽観的なシナリオでは、総収入は3億4150万円と見積もられました。
下記のようなキャリアパスが想定されています。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1 | 29 | 1 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 1 = 300 | 300 |
2 | 2-4 | 30-32 | 3 | 特任助教 | 650 | 650 x 3 = 1,950 | 2,250 |
3 | 5-10 | 33-38 | 6 | 助教 | 700 | 700 x 6 = 4,200 | 6,450 |
4 | 11-20 | 39-48 | 10 | 准教授 | 900 | 900 x 10 = 9,000 | 15,450 |
5 | 21-37 | 49-65 | 17 | 教授 | 1,100 | 1100 x 17 = 18,700 | 34,150 |
研究者のキャリアパスとして、4つの点でかなり奇跡的なキャリアパスです。
1つ目は、期間2のポスドク2年目から、年収650万円というポスドクとしてはトップレベルのポストについている点です。
本シリーズ第一弾のポスドク問題編で、天文学関係のポスドクポストの年収をリストしました。
年収650万円というのは、国立天文台特任助教や東京大学IPMUフェローといった非常に限られたポスドクポストのみで実現する数字です。
学振特別研究員の中でも選ばれたSPD(2020年は14名)でも535万円です。
ポスドク2年目からこのようなトップポスドクのポストを取れることはかなり稀です(もちろん本人の実績次第です)。
感覚的には、天文学分野で博士号を取得した者(年間10-20人程度)のうち、2学年に一人ぐらいこのポストを取れるようなイメージです。
2つ目のポイントは期間3で、ポスドク5年目でパーマネントのポジションにつけていることです。
ポスドクの平均年齢が36歳(第一弾参照)であることを考えると、33歳でパーマネントにつけるのは早いほうです。
ただ、期間2でトップポスドクのポストにつけている時点で、相当な実力と実績があるはずなので驚くほど早いということはありません。
ポスドク2-3年目で助教になれる人も3学年に一人ぐらいいるイメージです。
また、観測系の天文学者では、観測装置の開発を行っていると助教のポストに就きやすい傾向があります。
3つ目と4つ目の点は、期間4と5で、かなり若い段階で准教授、教授になれている点です。
早い段階で教授になれていることが、生涯年収を押し上げています。
東京大学が財務情報として公開している、教員の平均年齢をみると、准教授は46.3歳、教授は56.1歳です。
したがって、39歳で准教授、49歳で教授になるというのは平均と比べると若いということになります。
ただ、現場の印象としては、優秀な研究者はこのくらいの年齢で准教授や教授というポストについています。
やはり2-3学年に一人ぐらいはこのようなキャリアパスを歩んでいる印象があります。
また、期間3以降、パーマネント職の平均年収については、東京大学の教員の平均年収を想定して、これらの数値を置いています。
シナリオ2 | 研究者として理想的なキャリアパス = 3億2750万円
2番目に楽観的なシナリオでは、総収入は3億2750万円と見積もられました。
下記のようなキャリアパスが想定されています。
シナリオ1と比べて、助教が+1年、准教授が+5年、教授が-6年となっています。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1 | 29 | 1 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 1 = 300 | 300 |
2 | 2-4 | 30-32 | 3 | 特任助教 | 650 | 650 x 3 = 1,950 | 2,250 |
3 | 5-11 | 33-39 | 7 | 助教 | 700 | 700 x 7 = 4,900 | 7,150 |
4 | 12-26 | 40-54 | 15 | 准教授 | 900 | 900 x 15 = 13,500 | 20,650 |
5 | 27-37 | 55-65 | 11 | 教授 | 1,100 | 1100 x 11 = 12,100 | 32,750 |
シナリオ3 | 研究者として標準的なキャリアパス = 3億0550万円
中間的なシナリオでは、総収入は3億0550万円と見積もられました。
下記のようなキャリアパスが想定されています。
基本はシナリオ2と同じで、教授になれなかった場合を想定しています。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1 | 29 | 1 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 1 = 300 | 300 |
2 | 2-4 | 30-32 | 3 | 特任助教 | 650 | 650 x 3 = 1,950 | 2,250 |
3 | 5-11 | 33-39 | 7 | 助教 | 700 | 700 x 7 = 4,900 | 7,150 |
4 | 12-37 | 40-65 | 26 | 准教授 | 900 | 900 x 26 = 23,400 | 30,550 |
シナリオ4 | 研究者としてそこそこのキャリアパス = 2億2850万円
悲観的なシナリオの1つ目として、パーマネントにはなれても、助教止まりの場合を想定します。
この場合には、総収入は2億2850万円となりました。
下記のようなキャリアパスが想定されています。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1-7 | 29-35 | 7 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 7 = 2,100 | 2,100 |
2 | 8-12 | 36-40 | 5 | 特任助教 | 650 | 650 x 5 = 3,250 | 5,350 |
3 | 13-22 | 41-50 | 10 | 特任准教授 | 700 | 700 x 10 = 7,000 | 12,350 |
4 | 23-37 | 51-65 | 15 | 助教 | 700 | 700 x 15 = 10,500 | 22,850 |
科研費ポスドクの期間が7年に伸び、特任助教、特任准教授という非パーマネントポジションが50歳まで続く想定なので、それなりに悲観的な試算となっています。
特任准教授の年収については、東京大学の特任教員の平均給与を参考に設定しています。
シナリオ5 | 研究者として生き残れなかったキャリアパス = 2億4800万円
シナリオ5では、35歳で研究のキャリアを外れる場合で試算します。
この場合には、総収入は2億4800万円となりました。
下記のようなキャリアパスが想定されています。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1-6 | 29-34 | 6 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 6 = 1,800 | 1,800 |
2 | 7-37 | 35-65 | 31 | 民間企業 | 800 | 800 x 31 = 24,800 | 24,800 |
民間企業での平均年収は、内閣府経済総合研究所(ESRI)の「大学院卒の賃金プレミアム ―マイクロデータによる年齢-賃金プロファイルの分析―」という資料の図表4から、大学院卒者の平均年収を凡そ800万円と見積もりました。
比較シナリオ | ポスドク2年目で民間転職 = 2億9100万円
最後に比較として、ポスドク2年目から民間企業に転職した場合の試算です。
この場合には、総収入は2億9100万円となりました。
したがって、シナリオ3の研究者としての標準的なシナリオ(約3億)と同程度となります。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1 | 29 | 1 | 科研費ポスドク | 300 | 300 x 1 = 300 | 300 |
2 | 2-37 | 30-65 | 36 | 民間企業 | 800 | 800 x 36 = 28,800 | 29,100 |
民間企業修士卒(3億2800万円)との比較
さて、各シナリオの総所得を民間企業に大学院修士卒で就職した場合とで比較してみます。
まず、民間企業に大学院修士卒で就職した場合の総所得を計算します。
下記のように計算を行うと、総所得は3億2800万円となります。
期間 | 年次 | 年齢 | 年数 | ポスト | 平均年収[万円] | 合計収入[万円] | 累積収入[万円] |
1 | 1-41 | 25-65 | 41 | 民間企業 | 800 | 800 x 41 = 300 | 32,800 |
シナリオ3の研究者の標準的なキャリアパスの総所得を、民間企業院卒の総所得と比較すると、3000万円程度低いことになります。
また、研究者として非常に成功した場合のキャリアパス(シナリオ1)でも総所得は3億4000万程度です。
したがって、研究者として最大限成功しても、修士で民間企業に就職した場合とどっこいどっこいの総所得になります。
以上から、研究者のキャリアから得られる金銭的なリターンは修士卒で民間企業に就職した場合と同程度か小さいという結論になります。
金銭的なリスクは研究者の方が高いため、金銭面だけのリスク・リターンを考えると研究者のキャリアは割に合わないということになります。
研究者としてのキャリアを選択する場合には、金銭以外でのリターンが重視になります。
研究者としての能力を最大限発揮し、自分のやりたい研究を続けられる道は研究者以外にはありません(ただし、研究者としてある程度成功しないと、自分のやりたい研究を行いことはできませんが)。
特に天文学のような基礎研究を行っている民間企業は2020年現在、存在しません。
金銭的なリスク・リターンは見合わないけれども、自分のやりたい研究ができるというリターンをどこまで上乗せして考えるか、が研究者としてのキャリアを選択するか否かの分かれ道となります。
Conclusion | まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は、博士のキャリア事情シリーズの第2弾として、私が転職活動時に行った研究者の生涯年収推定をご紹介しました。
修士卒で民間企業に就職した場合と比較すると、研究者の生涯年収は最も成功した場合でようやく同程度となります。
研究者のキャリアのリスクを考えると割に合いません。
一方で、金銭以外のリターン、自分のやりたい研究をやれること、をどこまで重視するかが重要です。
また、今回の試算はあくまでも私が行った試算です。
かなり限定的な情報と、私の独断と偏見に基づきますので、「この研究者の生涯年収の見積もりは実態と合っていない」などの反論があるかもしれません。
次回の第3弾では、データサイエンティストらしく、実際の統計データを使って、研究者の生涯年収の分布を計算していく予定です!ご期待ください!
以上、「転職レシピ|博士のキャリア事情2(生涯年収推定編)」でした!
第3弾もお楽しみに!
またお会いしましょう!Ciao!
References | 参考
東京大学の就業規定: https://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_syuki/syuki06.pdf
東京大学の教職員の給与・平均年齢: https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400143155.pdf
学振特別研究員採用者一覧: https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_saiyoichiran.html
天文学会員の博士取得者は天文月報11月号に博士論文のタイトルが掲載される: https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/backnumber/
ESRIの研究資料: http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis310/e_dis310.html