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今日は音楽レシピとしてボーカルの部屋鳴りについてご紹介します。部屋鳴りとは、部屋の中の物がボーカルのレコーディング中に共鳴して鳴ってしまうことです。過剰な部屋鳴りがマイクで拾われると雑音となってしまいます。今回はボーカルトラックから部屋鳴りを見つける方法とレコーディング後に部屋鳴りを抑える方法をご紹介します。
この記事を読めば、自宅での録音で収録されてしまった部屋鳴りを特定し、修正する方法がわかります!
この記事はこんな人におすすめ
- DTMで音楽作成をしている!
- 自宅でレコーディングしている!
- ボーカルトラックをクリアにしたい!
Abstract | ボーカルの部屋鳴りはEQで発見・修正できる
部屋鳴りとは、ボーカルのレコーディングを行う際に、部屋の中の物がボーカルの声に共鳴して鳴ってしまうことです。共鳴がアンビエンスと言える程度の適量なものであればボーカルの響きを豊かにしてくれます。ところが過剰な部屋鳴りがマイクで拾われると雑音となってしまいます。そうなると
- 音の濁りやこもりの原因になる
- ボーカルが前に出てこない感じになる
- ミキシングでバランスが取りにくい
- マスタリングで音圧が上がらない
といった問題が生じます。
ボーカルトラックの部屋鳴りはEQを使って見つけたり、修正して減らしたりすることができます。もちろん、レコーディング前に部屋鳴りの原因となるものを取り除いて、なるべくクリアな音で録音できればベストですが、宅録では限界もあります。今回は、
- EQを使って部屋鳴りを見つける方法
- EQを使ってレコーディング後に部屋鳴りを抑える方法
をご紹介します!
Background | 部屋鳴りの題材音源
まずは題材音源を聞いていただきます。波乗りジョニーカバー音源のボーカルトラックです。もとの音源はYouTubeでご視聴いただけます。
以下では、この音源からボーカルトラックのみ抽出したものを聞いていただきます。ここでは1番のサビを聞いていただきます。ここからはヘッドフォンやイヤフォンでご視聴ください。
部屋鳴り修正前
こちらが部屋鳴りを抑えるEQ処理をする前です。
部屋鳴り修正後
こちらが部屋鳴りを抑えるEQ処理をした後です。
部屋鳴りが気になる箇所
一回聞いただけではなかなか分かりづらいですが、実は
「好きだと言って」の「て」 「天使になって」の「て」 「せつない胸に」の「せ」
などの部分で「ホーン」と部屋鳴りが鳴っています。さきほどの音源を聞くだけでは気づきづらいですが、
次のパートで紹介する部屋鳴りを見つける方法で、部屋鳴り部分を特定してから聞き直すとわかりやすいです。
Data | EQで部屋鳴りを見つける方法
EQを使ってボーカルトラックの部屋鳴りを見つける方法です。図1のように
- EQを立ち上げる
- Q幅が極細、ゲインが最大のピークを一つ作る
- ピークを左右に移動させながらボーカルトラックを再生、共鳴が大きいところを探す
という手順でやっていきます。
ボーカルトラックから部屋鳴りする周波数を探す例
実際にEQを使って部屋鳴りする周波数を探してみるとこのような感じになります。
このようにピークを低域から高域まで移動させながら大きく「ホーンホーン」と共鳴する帯域を探します。
気になった周波数帯
今回のボーカル音源で共鳴が気になった周波数帯域を見ていきます。私が気になった周波数帯域は
- 440 Hz付近
- 580 Hz付近
- 680 Hzから800Hz付近
です。
440 Hz付近
ラ(A4)の音である440 Hz付近で共鳴があります。440 Hz付近をEQで強調した例を聞いてみてください。「ホーンホーン」という共鳴音に注目して聞いてください。
ラを歌う部分で強く共鳴するとともに、ラ以外の部分でも「ホーン」と響いているのが気になります。「好きだと言って、天使になって」の「て」の音はラなので強く共鳴します。他の部分でも「ホンホン」鳴っているのが気になります。
580 Hz付近
レ(D5)の音(587.330 Hz)に近いの580 Hz付近でも共鳴があります。こちらも聞いてみてください。
レを歌う部分で強く共鳴するのはもちろんのこと、ミに上がったときやラに下がったときにも共鳴しています。「好きだと言って、天使になって」の大部分がレの音なので終始強く共鳴します。他の部分でも「ホンホン」鳴っているのが気になります。
680 Hz付近から800 Hz付近
ミ(E5)の音(659.2550 Hz)に近い680 Hz付近でも共鳴があります。また、680 Hzから800 Hzぐらいでも「ホンホン」鳴っている感じがあります。こちらも聞いてみましょう。
特定の音で共鳴しているというよりはずっと「ホンホン」鳴っている感じです。
1 kHz以上
1 kHz以上でも共鳴はありますが、今回の音源では比較的気になりません。一応こちらも強調した場合を聞いてみましょう。
Method | 部屋鳴りの修正方法
レコーディング後に部屋鳴りを修正する方法をご紹介します。今回は400Hz台から700Hz台ぐらいまでの共鳴が気になったので、このあたりをEQで削っておきます。Q幅が狭すぎると特定の音で音量が下がって聞こえてしまう可能性があるので、幅をもたせて削ります。
部屋鳴りを削減するEQの設定手順
レコーディング後に部屋鳴りを修正するためのEQは図2にある通り、以下のように設定します。
- EQをボーカルトラックに挿入して起動する
- 対象の帯域を緩く削るよう、広い谷を作る
- 削って音量が下がった分、全体のGainを少し上げる
今回はピークを複数組み合わせて400 Hz代後半と700 Hzぐらいに幅の広い谷を2つ作りました。これで500 Hz代、600Hz代もつられて削られます。
また、400 Hz代から700Hz代を削った分だけ全体の音量が下がります。これを補うためにoutputゲインを上げて調整します。
Q幅の注意点
Q幅が狭すぎると特定の音で音量が下がって聞こえてしまう可能性があります(図3)。
Q幅を広くしたり、複数のピークを組み合わせて広い谷を作ることで、元の音(共鳴音ではない音)が極端に変わらない程度の幅を確保しましょう(図4)。
Result | 部屋鳴り修正前後の聴き比べ
部屋鳴り修正前後の聴き比べをしてみましょう。
共鳴が気になる箇所の確認
聴き比べの前に、共鳴が気になる箇所を確認しておきます。440 Hz付近を強調した場合をもう一度聞いておきましょう。
修正前後の比較
共鳴が聞こえる箇所を意識して、部屋鳴りの修正前と修正後を聴き比べましょう。特に
好きだと言っ「て」 天使になっ「て」
の「て」に注目です。
好きだと言っ「て」 天使になっ「て」
の「て」の裏側で鳴っている「ホーン」という音が小さくなっています。
別の箇所でも確認
別の部分でも確認してみましょう。同じサビの少し後ろの部分、「せつない胸に波音が」の「せ」の部分に注目してください。まずは440 Hzを強調した場合を聞いて共鳴が強い箇所を確認します。
修正前後の比較
共鳴が聞こえる箇所を意識して、部屋鳴りの修正前と修正後を連続で聴き比べます。
せつない胸にの「せ」のみ比較
今度は「せ」のところだけ連続で修正前と修正後を聴き比べます。「せ」の裏側で鳴っている「ホン」という響きに注目してください。
「せ」の裏側で鳴っている「ホン」という響きが減っています。
オケを含めて聴き比べ
最後にサビの部分をオケを含めて聴き比べましょう。
修正前の方がボーカルにこもった感じがあります。このように400Hzぐらいから700Hzぐらいの中音域で余計な音が入ると、こもった感じになってしまいがちです。
Discussion | 部屋鳴りの原因を考察
部屋鳴りの原因を考察します。今回ご紹介したボーカルの裏で「ホンホン」鳴る音は、近くにあるいろいろなものが共鳴して鳴っている可能性があります。どんなものが考えられるか考察していきます。
仮定 | 筒状の構造物の共鳴
ここではシンプルに筒状のものが共鳴することを考えます(図5)。
両開口端の共鳴
筒状のものが共鳴する場合には、両開口端と片開口端の2つがあります。
両開口端はその名の通り、両端が開いた筒のことです。このような構造では筒の両端で振幅が最大となる形の音波が発生します(図6)。
図6のように、筒の中に含まれる音波は波長の半分です。したがって、
筒の長さ = 音の半波長
となります。つまり、音波の波長は筒の長さの2倍となります。
片開口端の筒の共鳴
片開口端は片側の端が開いた筒のことです。閉じた側の端では音波の振幅がゼロ、開いた側の端で最大となる形の音波が発生します(図7)。
筒の中に含まれる音波は波長の1/4です。したがって、
筒の長さ = 1/4波長
となります。
周波数と波長の関係
次に、周波数を波長に変換してみましょう。波の周波数\(f\)と波長\(\lambda\)、波の進む速度\(v\)には
$$
v = f \lambda
$$
すなわち
$$
\lambda = \frac{v}{f}
$$
という関係があります。
音速は常温で340 m/s程度です。したがって、440 Hzの音の波長は
$$
\lambda = \frac{340\ \mathrm{m/s}}{440\ \mathrm{/s}} = 0.77\ \mathrm{m} = 77\ \mathrm{cm}
$$
です。
共鳴原因の構造物の大きさの推定
両開口端・片開口端の筒の長さと波長の関係、波長と周波数の関係から、共鳴している周波数と共鳴の原因となっている構造物のだいたいの大きさに見当がつけられます。
440 Hzの音の波長は77 cmなので、440Hz付近で共鳴する両開口端・片開口端の筒の長さは
- 両開口端(半波長): 30 — 40 cm程度
- 片開口端(1/4波長): 15 — 20 cm程度
となります。つまり、440Hz付近の共鳴は数10 cm程度の構造物に起因している可能性があります。
他に例えば、880 Hzでは波長は440 Hzのときの半分なので、880Hz付近で共鳴する両開口端・片開口端の筒の長さは
- 両開口端(半波長): 15 — 20 cm程度
- 片開口端(1/4波長): 7 — 10 cm程度
となります。
以上から、今回気になった400Hz台から700Hz台の共鳴は10cm程度から数10cmの構造物による可能性があります。部屋の中を見渡してみると10cm程度から数10cmの構造物はたくさんあることがわかります。今回は具体的な原因を特定することはしませんが、400Hzぐらいから700Hzぐらいの帯域で部屋鳴りが起きやすいことに注意が必要です。
Conclusion | まとめ
最後までご覧頂きありがとうございます!
自宅でレコーディングをしていると、部屋の中のいろいろな構造物が共鳴して部屋鳴りが起こることがあります。部屋鳴りが大きいと、
- 音の濁りやこもりの原因になる
- ボーカルが前に出てこない感じになる
- ミキシングでバランスが取りにくい
- マスタリングで音圧が上がらない
といった問題に繋がります。宅レコでは、レコーディングスタジオではない以上、うまく付き合っていく必要があります。
実は今回の宅レコで400Hzから700Hzの部屋鳴りの原因について、一番の心当たりは同じ部屋に立ててあったアコースティックギターです。いちおう弦はミュートされているのですが、共鳴して鳴っていた可能性がかなり高いです。宅レコの際は近くの楽器の共鳴にも注意が必要です。
以上、「音楽レシピ | ボーカルの宅録では部屋鳴りに注意」でした!